テキスト】 魚がすれているといわれる場所での釣り方 小西茂木 (昭和52年10月17日)

 

大型のコイや草連魚が多く、水の状況も悪くはないのに、時おりしか釣果の見られない場所が各地にあります。魚がすれているから、食いがしぶいのだと、人がいいます。

「すれる」というのは、人ずれする、世間ずれする、悪賢いなどの意味です。すれっからしの娘だというのなら話しはわかりますが、人ずれした魚、つまりその魚本来の習性の、ゆがめられた魚が、野釣り場にいるとは考えられません。魚がすれているというのは、おびえやすくなっている、普通以上に警戒心が強くなっている状態のことでしょう。

魚がすんでいるといわれる場所では、鉄橋を通る列車のひびき、行きかう車の騒音、高速モーターボート、投網、多くの釣り人、その他、悪条件が積みかさなっています。重い仕掛けの着水音や仕掛けをあげ、さげする時の振動音も、魚をおびえさせるに違いありません。長い年月を生き延びてきた老大魚は、特に警戒心がつよく、若魚のようにむやみに食いたがらないことも、アタリの少ない原因のひとつでしょう。そして大型魚は気象変化に敏感で、食いしぶる日が多いことも、人々に知られた事実です。

さて、このような場所―――年中おびやかされ続け、魚がすれているといわれる場所で釣るには、どうすればいいか。会員諸君と共に、ひとつの実験に着手してみたいものです。

まず、従来の道糸7号を6号に替え、(先糸5号)、オモリは2号(流れがあるか、3メートル以上の深場なら3号)として、遊動ウキにY字型ハリスの柔らかい食わせエサを、軟調のサオで、できる限り静かに、アタリが出るまで4、5分おきに、根気よく打ち続けてみようというのです。2本ザオでは忙しい気がするので、私は1本のサオに、注意を集中してやってみます。この方法は、本会会員には、特に目新しいものではありませんが、いっそうの注意をもって積極的にエサを打ってみようというのです。

道糸を6号に替えるだけでも、多少の効果があるはずです。5号にしたいが、それでは先糸を4号にしなければならず、10キロ級が来た時に心配です。細い道糸、先糸を使うなら、もちろん最上質のものを選ばなくてはなりません。釣をしている間にも、傷がついていないかどうか、たえず注意している必要があります。たとえ傷がなくても、使いふるして弱くなった糸は、新品と取り替えなくてはなりません。

この仕掛けと釣り方は、横利根川などのように川幅がせまいところでも、有効だと思います。川幅がせまければ、仕掛けの着水音や糸の振動が反響して、魚をおびえさせることが多いからです。NHK教育テレビ『音感』(昭47.9.1放送)に会長が出演する際、NHKグラウンドの水泳プールで、投餌音の水中録音が行なわれました。その音をグラフに示したものやフィルムが寄贈されたので、今でも保存していますが、どれほど注意して投げても、投餌音が二重三重に反響して、水底がひどくさわがしくなってしまうのです。これには驚きました。タイル張りのプールでは、特に反響が強いのです。大きな川や湖沼ではプールほどの強い反響はないにしても、横利根川のように川幅がせまいと、両岸にあたった音がはね返ってくるわけだから、投餌音が高く激しくならないように注意すると同時に、なるべく細い糸を使う方が有利だといえるわけです。

もちろん、単に糸を細くしさえすれば、次々にアタリがあるというわけではありません。柔らかいエサをポイントの1点に、せっせと打ち返し、あまい投餌音で、魚の過敏になった警戒心をときほぐし、魚群を誘い寄せることに努力しなければなりません。

ちかごろでは、エサを投げこんでおきさえすれば釣れるという場所は、ほとんどなくなったといっても過言ではありません。どこへ行っても多かれ少なかれ水は汚れ、魚がすれているので、釣り方にもくふう研究が必要です。

 
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